高校山岳部でお世話になった先生がおススメしていた本田勝一の『リーダーは何をしていたか』(朝日新聞社・1997年初版)を読んでみた。
扱っている事例は以下の通り
・逗子開成高校の北アルプス遭難(1980)
・航空高専の中央アルプス遭難(1977)
・関西大倉高校の八ヶ岳2重遭難(1982)
・静岡体文協の八ヶ岳遭難(1978)
・ガイド付き登山の穂高岳遭難(1988)
少し古い本なので事例は古いけど、これらすべてが積雪期の山岳事故でうち3件は高校山岳部での事故となっている。
しかしすべてに共通している最も大事なことは、これらの事故の原因が引率者の圧倒的技量・知識不足にある点。
著者は「バスの無免許運転で事故を起こす業務上過失致死傷と同様にリーダーは責任を追及されるべきだ」と主張している。
実際これらの事例は山を多少やっている人であれば愕然とするようなお粗末なものばかり。
でも、それと同時に著者が実際に事故現場に赴き、表面的に「何が起きた」だけ調べるのではなく、「なぜこのような判断をしてしまったのか」・「なぜこう行動したのだろう」という背景をしっかり客観的に推察する様子には尊敬の念を抱く。
その当時の山岳事故に対する高度なジャーナリズムとリテラシーは今は失われてしまいつつあるかもしれない。
んでもって気になったことがちょっとあったので。
大学山岳部で先輩が下級生を連れて行く登山は「引率登山」なのか?
高校山岳部の3つの事例に関しては引率教員が生徒の安全配慮義務を怠ったと認定されたけれども、もし大学山岳部で下級生を上級生が連れて行ってそこで事故が起きた場合安全配慮義務は発生するのだろうか?
大学山岳部OBとしてそこは気になるところ。
ということで実際に事例を調べてみると...
2003年の弘前大学医学部山岳部の涸沢岳西尾根での裁判事例があった。
この事件は冬季の涸沢岳西尾根を下降中に下級生が滑落・死亡した事例で、ロープをもっていってないなどといった計画のお粗末さについて、遺族がリーダーは安全配慮義務を怠ったとして起こした訴訟事例。
この裁判は結果的に遺族が敗訴した。山岳事故訴訟で有名な溝手弁護士曰く、
「中高生と異なり、大学生は大人とほぼ同等の扱いがなされること、無謀登山が直ちにリーダーの法的責任を生じさせるものではないこと、安全配慮義務が発生する場合は例外的な場合であること」
を示す重要な判例であるとのこと。
つまり、大学生の登山はあくまで本人の意思によっての登山とみなされるらしい。
山でのリーダーの資質というのは何だろうか。
特に山岳部や山岳会などの大パーティーのリーダーをする人にとっては必読の本だと思う。
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